施行から約3年で見えた
「相続土地国庫帰属制度」の限界と、負動産を確実に手放す新常識
― 「審査に通らない」という現実と、次の一手 ―
「相続した土地を国に引き取ってもらえる」——2023年4月27日に施行された相続土地国庫帰属制度は、多くの方にとって待望の制度でした。しかし2026年4月現在の最新情報に基づくと、申請件数が増える一方で、取り下げや審査落ちを含めると実際に国に引き渡された件数は申請件数の半数前後にとどまっているという実態が浮かび上がっています。本当に手放したい「負動産」が審査要件に通らないという構造的な問題を正確に理解した上で、現実的な選択肢を整理します。
この記事を読むと得られること(FAQ)
相続土地国庫帰属制度:施行から約3年の実績データ
2026年4月現在の最新情報に基づくと、法務省が公表している相続土地国庫帰属制度の統計(2026年2月28日現在・速報値)は次のとおりです。
法務省統計(2026年2月28日現在・速報値)
この数字の読み方には注意が必要です。申請件数5,140件のうち取り下げが940件(約18%)あり、残る申請のうちどれだけが審査中かは現時点で把握できません。標準処理期間が8か月程度とされているため、審査が進行中の案件も多く含まれます。「帰属件数÷申請件数」で単純に承認率を算出することは統計の性質上難しく、現時点での実態として「国に引き渡された件数は申請件数の半数前後」という把握が適切です。
取り下げの主な理由には「隣接地所有者から引き受けの申し出があった」「自治体や農業委員会の調整により活用の見込みが立った」などが挙げられており(法務省統計)、取り下げが必ずしも「断念」を意味するわけではありません。
制度の詳細要件は法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」で確認できます。申請前に管轄法務局への事前相談を行うことが推奨されています(支局・出張所では申請を受け付けていないため、管轄の法務局本局への確認が必要です)。
本当に手放したい土地が通らない:却下・不承認の構造
相続コンサルタントとしての実務経験から言えば、この制度が最も「使いにくい」と感じる場面は、処分したい土地こそが要件から外れているというケースです。管理に困っているから手放したい——その困り方自体が、却下事由に当てはまるという逆説的な構造があります。
| 却下・不承認の主な事由 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 建物・工作物・車両・樹木などがある(却下) | 建物がある場合は申請不可。申請前に自費で解体・更地化が必要。空き家の解体費用(木造30坪で150万〜200万円程度が目安・地域・構造により変動)が先行してかかる。工作物・放置車両・大きな樹木なども同様に対象外となる場合がある。 |
| 境界が不明確(却下) | 境界杭がない・隣地との境界争いがある場合は申請できない。申請前に境界確定測量の費用が発生する。接道する私道部分が要件を満たさないために宅地部分は要件を満たしていても申請できない実例もある。 |
| 担保権・使用収益権がある(却下) | 抵当権・地上権・賃借権等が設定されている土地は対象外。 |
| 土壌汚染がある土地(不承認) | 土壌汚染のある土地は原則として不承認。専門機関による土壌調査が必要になるケースがある。 |
| 災害リスクのある急傾斜地(不承認) | 崩落・土砂流出等のリスクが高いと判断される急傾斜地は不承認になり得る。具体的な基準は個別の審査判断によるため、事前に法務局に相談することが重要。 |
| 国による追加整備が必要な森林(不承認) | 国が管理するにあたって追加の整備が必要と判断される森林は不承認になる場合がある。 |
申請手数料(1筆14,000円)は、審査結果にかかわらず返金されません。却下・不承認となった場合でも手数料は戻りません。また、申請前に境界確定や建物解体などを行う費用は全額申請者の負担です。申請に踏み切る前に、土地の状況を専門家に確認してもらうことが損失を防ぐ最短ルートです。
金銭的負担の全体像:「無料で手放せる」は誤解
この制度は「土地を国に引き渡せる」制度ですが、「無料で手放せる」制度ではありません。申請から承認まで、複数のコストが発生します。
審査手数料(1筆14,000円)+負担金(宅地は原則20万円以上・面積や地域によって異なる)+申請前の整備費用(解体・境界確定・清掃等)を合算すると、申請者の総支出が数百万円規模になることもあります。「国に引き渡す」という行為自体にコストがかかるという点を、まず正確に認識することが重要です。
制度が使えない場合の4つの代替手段
国庫帰属制度の要件を満たさない「負動産」を抱えた場合、どのような選択肢があるのかを整理します。いずれも一長一短があり、土地の状況・立地・相続人の事情によって最適解は異なります。
「知らないから選べない」という構造
制度の存在を知らないまま、手放せない土地を毎年固定資産税だけ払い続けているケースは実務上も少なくありません。そして知っていたとしても、どの要件が問題になるかを自力で判断することは難しく、事前相談なしに申請して手数料を無駄にするケースも見られます。
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