施行3年で見えた「相続土地国庫帰属制度」の限界と、負動産を確実に手放す新常識

相続土地国庫帰属制度の限界と負動産を手放す方法・申請要件と承認率の実態を示すイメージ・福岡の相続不動産

施行から約3年で見えた
「相続土地国庫帰属制度」の限界と、負動産を確実に手放す新常識
― 「審査に通らない」という現実と、次の一手 ―

「相続した土地を国に引き取ってもらえる」——2023年4月27日に施行された相続土地国庫帰属制度は、多くの方にとって待望の制度でした。しかし2026年4月現在の最新情報に基づくと、申請件数が増える一方で、取り下げや審査落ちを含めると実際に国に引き渡された件数は申請件数の半数前後にとどまっているという実態が浮かび上がっています。本当に手放したい「負動産」が審査要件に通らないという構造的な問題を正確に理解した上で、現実的な選択肢を整理します。

この記事を読むと得られること(FAQ)

Q. 相続土地国庫帰属制度とはどのような制度ですか?
A. 2023年4月27日に施行された制度で、相続または遺贈で取得した土地が一定の要件を満たす場合に、国が引き取ってくれる制度です。申請には1筆14,000円の審査手数料と、承認後に10年分の管理費用相当額の負担金(宅地の場合は原則20万円以上で、面積や地域によって異なります)の納付が必要です。ただし審査要件が厳しく、本当に処分したい「負動産」が対象外になるケースも多いとされています。
Q. 相続土地国庫帰属制度の審査に通らないのはなぜですか?
A. 建物・工作物・車両・樹木などがある土地、境界が不明確な土地、抵当権等が設定された土地、土壌汚染がある土地や災害リスクのある急傾斜地などは却下事由または不承認事由に該当します。法務省統計(2026年2月28日現在・速報値)によれば、申請件数5,140件に対し帰属件数は2,542件、申請取り下げが940件(約18%)あり、審査に至る前に取り下げるケースも多く見られます。
Q. 相続土地国庫帰属制度が使えない場合、負動産を手放す方法はありますか?
A. 制度要件を満たさない場合の選択肢として、①隣地所有者への売却・贈与、②自治体への寄付・買取依頼(ただし受け入れは限定的です)、③不動産会社を通じた売却(原価・割安売却を含む)、④解体・整地後に再申請の4つが挙げられます。どの方法が現実的かは土地の状況によって異なるため、専門家への早めの相談が有効です。

相続土地国庫帰属制度:施行から約3年の実績データ

2026年4月現在の最新情報に基づくと、法務省が公表している相続土地国庫帰属制度の統計(2026年2月28日現在・速報値)は次のとおりです。

法務省統計(2026年2月28日現在・速報値)

5,140件
累計申請件数
2,542件
国庫帰属件数
940件
申請取り下げ(約18%)

この数字の読み方には注意が必要です。申請件数5,140件のうち取り下げが940件(約18%)あり、残る申請のうちどれだけが審査中かは現時点で把握できません。標準処理期間が8か月程度とされているため、審査が進行中の案件も多く含まれます。「帰属件数÷申請件数」で単純に承認率を算出することは統計の性質上難しく、現時点での実態として「国に引き渡された件数は申請件数の半数前後」という把握が適切です。

取り下げの主な理由には「隣接地所有者から引き受けの申し出があった」「自治体や農業委員会の調整により活用の見込みが立った」などが挙げられており(法務省統計)、取り下げが必ずしも「断念」を意味するわけではありません。

制度の詳細要件は法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」で確認できます。申請前に管轄法務局への事前相談を行うことが推奨されています(支局・出張所では申請を受け付けていないため、管轄の法務局本局への確認が必要です)。

本当に手放したい土地が通らない:却下・不承認の構造

相続コンサルタントとしての実務経験から言えば、この制度が最も「使いにくい」と感じる場面は、処分したい土地こそが要件から外れているというケースです。管理に困っているから手放したい——その困り方自体が、却下事由に当てはまるという逆説的な構造があります。

却下・不承認の主な事由 具体的な内容
建物・工作物・車両・樹木などがある(却下) 建物がある場合は申請不可。申請前に自費で解体・更地化が必要。空き家の解体費用(木造30坪で150万〜200万円程度が目安・地域・構造により変動)が先行してかかる。工作物・放置車両・大きな樹木なども同様に対象外となる場合がある。
境界が不明確(却下) 境界杭がない・隣地との境界争いがある場合は申請できない。申請前に境界確定測量の費用が発生する。接道する私道部分が要件を満たさないために宅地部分は要件を満たしていても申請できない実例もある。
担保権・使用収益権がある(却下) 抵当権・地上権・賃借権等が設定されている土地は対象外。
土壌汚染がある土地(不承認) 土壌汚染のある土地は原則として不承認。専門機関による土壌調査が必要になるケースがある。
災害リスクのある急傾斜地(不承認) 崩落・土砂流出等のリスクが高いと判断される急傾斜地は不承認になり得る。具体的な基準は個別の審査判断によるため、事前に法務局に相談することが重要。
国による追加整備が必要な森林(不承認) 国が管理するにあたって追加の整備が必要と判断される森林は不承認になる場合がある。

申請手数料(1筆14,000円)は、審査結果にかかわらず返金されません。却下・不承認となった場合でも手数料は戻りません。また、申請前に境界確定や建物解体などを行う費用は全額申請者の負担です。申請に踏み切る前に、土地の状況を専門家に確認してもらうことが損失を防ぐ最短ルートです。

金銭的負担の全体像:「無料で手放せる」は誤解

この制度は「土地を国に引き渡せる」制度ですが、「無料で手放せる」制度ではありません。申請から承認まで、複数のコストが発生します。

審査手数料(1筆14,000円)+負担金(宅地は原則20万円以上・面積や地域によって異なる)+申請前の整備費用(解体・境界確定・清掃等)を合算すると、申請者の総支出が数百万円規模になることもあります。「国に引き渡す」という行為自体にコストがかかるという点を、まず正確に認識することが重要です。

制度が使えない場合の4つの代替手段

国庫帰属制度の要件を満たさない「負動産」を抱えた場合、どのような選択肢があるのかを整理します。いずれも一長一短があり、土地の状況・立地・相続人の事情によって最適解は異なります。

①隣地所有者への売却・贈与
隣地所有者にとって、土地が広がることは利益になる場合があります。市場価格より低くても売却・贈与できれば、管理費の負担から解放されます。土地家屋調査士や不動産会社を通じた打診が有効です。
②自治体への寄付・買取依頼
自治体が公共目的で必要としている土地であれば、無償譲渡や買取に応じてもらえることがあります。ただし自治体も管理コストを考慮するため、利用目的のない土地の受け入れはかなり限定的です。事前の相談で可能性を確認してから進める必要があります。
③不動産会社を通じた売却
利益を期待しない「原価売却」「割安売却」という発想への転換が有効な場合があります。遠方・農地・山林に特化した買取業者への相談も選択肢です。「いくらで売れるか」より「いくらまで支出できるか」を先に考えることが大切です。
④解体・整地後に再申請
建物を解体し、境界を確定させることで審査要件を満たせる可能性があります。初期費用はかかりますが、管理コストから恒久的に解放されるという観点から、総合的にプラスになるケースもあります。費用対効果の試算が必要です。

「知らないから選べない」という構造

制度の存在を知らないまま、手放せない土地を毎年固定資産税だけ払い続けているケースは実務上も少なくありません。そして知っていたとしても、どの要件が問題になるかを自力で判断することは難しく、事前相談なしに申請して手数料を無駄にするケースも見られます。

負動産の問題は、「どう手放すか」を考える前に、「そもそも選択肢を知っているか」という情報の問題でもあります。制度の限界を知った上で、次の手を打てるかどうか——準備の差がそのまま結果の差になります。

福岡市東区・香椎エリアでも、相続した故郷の農地や山林の扱いに困っているというご相談は増えています。香椎相続不動産事務所では、相続不動産の状況確認から、国庫帰属制度の要件確認・代替手段の比較検討まで、初回相談から一体的にご支援しています。

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本記事は2026年4月時点の情報をもとに作成しています。法務省統計数値(申請件数5,140件・帰属件数2,542件・取り下げ940件)は2026年2月28日現在の速報値であり、今後更新される場合があります。負担金の金額は宅地の場合原則20万円以上ですが、地目・面積・地域によって異なります。却下事由・不承認事由の具体的な判断基準は個別の審査によって異なるため、申請前に管轄法務局または専門家への相談をお勧めします。解体費用・境界確定費用は業者・地域・土地の状況によって大きく異なります。法律・制度は改正される場合があります。

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