女性2人が体験した、本当に怖い「相続の失敗」

女性2人が体験した、本当に怖い「相続の失敗」

東洋経済オンライン  2019年9月22日 8時0分

(写真:cba/PIXTA)

親の遺産相続の際に、これだけは知っておくべきポイントを2つの例とともに解説します

遺言執行者が書かれていないばかりに…

ここ1、2年、遺言を書きたい、というご相談がたいへん増えています。今年1月13日施行の民法改正でも、自筆証書遺言の様式が緩和されるなど、国も遺言を奨励する傾向にあります。

さて、そんな遺言ですが、意外と知られていない盲点があります。それは、遺言執行者をきちんと指定しておくべきである、ということ。指定していなかったばかりに、大変なトラブルが起きることがあります。

子さんもトラブルに見舞われた1人。A子さんは父親が亡くなって以来、母親と同居し、母の最期まで1人で面倒をみました。A子さんには、3歳上の兄がいますが、両親と反りが合わず、実家に寄りつかなかったのです。

母はA子さんに感謝し、実家の土地建物はもちろん、預貯金、投信などの財産の大半をA子さんに相続させる旨の遺言を残してくれました。ただ、兄と紛争になってもいけないので、兄の取得分はゼロとせず、遺留分相当、つまり全財産の4分の1相当の預貯金を相続できるような遺言となっていました。

ところが、いざA子さんが遺言のどおり、預貯金や投信を換金しようとしたところ、金融機関の窓口で「遺言書に遺言執行者の記載がないので、手続きに応じられません」と言われてしまいました。遺言執行者がいない場合は、相続人全員による必要書類への署名や実印での捺印、そして各々の印鑑証明書が必要となる、というのです。

A子さんは、兄に協力をお願いしましたが、遺言の内容が気にくわないのでしょう。兄は電話にも出ない、メールの返事も返さない始末。

これでは相続税の申告期限までに現金化できず、納税資金が準備できなくなりそうで、A子さんは気が気ではない毎日を送ることとなってしまったのです。

よく誤解されがちですが、遺言を書けば、自動的にそのとおりになるわけではありません。誰かがその遺言を持って、名義変更などの手続きのために金融機関回りをしなければならず、この事務手続きをする人のことを「遺言執行者」といいます。遺言執行者は相続人の一人でも構いません。このケースではA子さんでも構わなかったのです。

遺言執行者が記載されていない遺言の場合は、換金や名義変更の手続きに相続人全員の協力が必要となるのが一般的です。A子さんのケースのように、相続人同士がうまくいっていない場合は、預貯金の払い戻しすらスムーズにできない恐れが出てきます。

家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てるという方法もありますが、相続人間で揉めていると遺言執行者の候補について意見がまとまらないことも多く、また選任までは時間もかかるため、やはりスムーズな相続とはいきません。

せっかくご自身の思いを伝え、残された相続人が揉めずにスムーズに相続してくれることを祈って遺言をしたためたのに、遺言執行者を決めておかなかったばかりに、相続人に余計な心労を与えてしまったのがこのケースです。「争族」を避けるために、細部まで気を抜かないことが重要です。

贈与税なしでもらったお金も相続時に精算!?

今度は贈与税で失敗したB子さんのケースです。

B子さんは父親から相続対策にと、毎年110万円の現金の贈与を受けてきました。1暦年に110万円までであれば、贈与税はかからないからです。

あるとき、起業することにしたB子さんは、まとまった金額を贈与してもらうこととなりました。インターネットで調べたところ、「相続時精算課税制度」という制度を選択すれば、2,500万円まで贈与税がかからないことを知り、父にはその年2,500万円を贈与してもらい、税務署への届出や申告は自分で済ませました。本当に贈与税は0で済み、ほっとしたといいます。

翌年からは、金額を年間110万円に戻し、現金の贈与を受け続けて10年後、父が亡くなりました。

ところが……、父の相続税申告を済ませて数カ月後、税務署から突然の連絡が。「相続時精算課税制度による贈与財産」2,500万円が申告から漏れているというのです。

さらには相続時精算課税制度を選択して以降、受け取った110万円×10年分=1100万円についても、相続税申告に追加計上しなければならないうえ、贈与税の期限後申告まですることとなり、延滞税や加算税も含め、多額の納税が必要。きちんと調べて、適切な手続きをしてきたと思ってきたB子さんは、驚いてしまいました。

Bさんはいったいどうすればよかったのでしょうか。

相続時精算課税制度(以下「本制度」)とは、その名のとおり、「相続」のときに「精算」する制度です。筆者が見る限り、「2,500万円まで非課税」という数字だけが1人歩きをして、制度を理解しないまま使ってしまう方が多いようです。

ここで理解すべきポイントは、本制度を使って生前に贈与された財産はすべて、相続時に相続財産に加え直して相続税の対象となる、という点です。

本制度の絶対に知っておきたいポイント

このケースでいうと、本制度を選択して以降もらった財産すべて、つまり、2,500万円+1,100万円=3,600万円を、相続発生時点の父の財産にプラスして、相続税が計算されるということになります(納付した贈与税がある場合は相続税から控除できます)。

また、本制度は、累計で2,500万円までは非課税ですが、それを超えたら一律20%の贈与税がかかる制度です。本制度を選択した年に、すでに2,500万円の非課税枠を使い切ってしまいましたから、その後に貰った110万円については、毎年一律22万円の贈与税の申告と納付が必要であったというわけです。

そして、この制度の最重要ポイントは、1度父からの贈与について本制度を選択したら、父からの贈与については2度と暦年贈与課税制度(年間110万円まで非課税)へ戻ることができない、二度と年間110万円の非課税枠は使えない、という点です。

たとえ年間50万円の贈与を受けたとしても、一律20%ですから10万円の贈与税の申告と納付が必要となるのです(本制度を選択していない、母や祖父母からの贈与については従来どおり暦年贈与課税制度が使えます)。

また、相続対策という観点からは、暦年贈与課税制度では、贈与した財産をご自身の財産から切り放すことが可能ですが、本制度では相続時にまた加え直します。ですから、ご自身の財産を減らすという方向の相続対策には何ら役に立たないという点をよく理解しましょう。また、二度と暦年贈与課税制度に戻れない点も考慮し、本制度の選択には十分な検討をするよう、心がけてくださいね。

https://toyokeizai.net/articles/-/301623


最近は相続法の改正も含めて、相続に関する様々な情報が、インターネット上にあふれていますが、しっかりと理解した上で対策を行わないと、これからは上記のような失敗も増えてくると思われます。

相続・事業承継に関してご不明な点があれば、福岡市東区の香椎相続不動産事務所へお気軽にお問合せください。


知らないと後悔する、後から知って後悔する
相続・事業承継に関する最新の事例・情報を定期配信中!
お友達登録で、
「誰もが知ってるあの人も?
読んで知って実感する。
身近な相続トラブル事例集」
無料プレゼント中!